危機時期以降の弁済とは?

借金の返済が苦しくなると、
「迷惑をかけたくない相手だけ先に返したい」
と考えてしまいがちです。

しかし、破産を視野に入れる場面では、その返済が**後から取り消される(否認される)**リスクがあります。

危機時期以降に、特定の債権者だけに返済(偏頗弁済)をすると、破産管財人に否認される可能性があります。


1. 現行破産法の基準は「支払不能」

ここはとても重要なポイントです。

  • 旧法では「支払停止」が基準とされていました。
  • 現行破産法では、偏頗行為否認の基準として「支払不能」が採用されています。

支払不能とは

支払不能(破産法15条1項)とは、

借金を、一般的かつ継続的に返せない客観的状態
をいいます。
本人の主観ではなく、外形的・客観的に見て返済不能かで判断されます。


2. 支払不能を推認する事情

支払停止は、現行破産法において否認の要件そのものではありません。
しかし、支払不能であったことを推認(推し量る)する重要な事情として、実務上、非常に重視されます(破産法15条2項、162条3項)。

支払停止とは

破産法15条2項に規定のある「支払停止」とは、

  • 支払いをやめたことを取引先など外部に示す行為
    を指します。

  • 支払いを一斉に止めた
  • 弁護士に破産を依頼して受任通知を送付した
  • 銀行取引停止を受けた
    など

実務上の位置づけ

「支払停止があった = 直ちに否認される」ではありません。
しかし、
「支払停止がある = その時点で支払不能に陥っていた可能性が高い」
と評価されやすく、
危機時期以降の弁済と認定されやすくなります。


3. 危機時期とは?

危機時期とは、実務上

債務者が支払不能に陥った時点以降
を指す説明として使われます。

重要なのは、
危機時期は、事前に確定できるものではなく、後から客観事情を総合して判断される
という点です。


4. 支払不能の判断で見られるポイント

次の事情を総合的に見て判断されます。

  • 一般性:特定の相手だけでなく、借金全体として返せないか
  • 継続性:一時的な資金不足ではなく、今後も返済の目途がないか
  • 総合評価
    • 財産:換金できる資産があるか
    • 信用:実質的に借入やリスケが可能か
    • 労務:収入・売上の回復見込み

これらに加えて、
支払停止の有無は「支払不能を推認する事情」として強く考慮されます。


5. 否認されやすい典型例

  • 特定の債権者だけに返済
  • 親族・知人への返済(トラブルになりやすい)
  • 借金をして返済原資を作る
  • 明確な返済見通しがないのに無理に返す

6. すべての支払いが否認されるわけではありません

危機時期以降の支払いでも、すべてが否認対象になるわけではありません。

対象外になり得る例

  • 同時交換的取引(同時履行)
    商品と代金の同時交換など、財産が一方的に減っていない取引
  • 通常の営業取引・日常生活費
    事業継続・生活維持に必要な通常範囲の支出

※ただし、
金額・頻度・偏りによって評価は変わります。自己判断は危険です。


まとめ

  • 危機時期以降の偏った返済は、否認リスクが高い。
  • 「支払不能」後の弁済は危機時期以降の返済と評価される
  • 支払停止」は、「支払不能」を推認する重要な事情として、危機時期の認定に強く影響する。
  • 返済の可否は、個別事情で結論が変わるため、自己判断は危険。

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