「似ている気がするけど、これって著作権侵害?」
創作活動やビジネスの現場では、こうした悩みが頻繁に起こります。
著作権侵害(特に複製や翻案)の場面で重要になるのが、作品の“どこが”保護されるのかという視点です。
その判断の考え方として、実務・学説でよく語られるのが 濾過テスト(ろかテスト) です。
濾過テストは、作品同士の共通部分から、著作権法上保護されない要素を「濾過(フィルタリング)」して取り除き、創作的表現(保護される部分)に実質的な同一性があるかを検討します。
この記事では、濾過テストの考え方を 一般向けに・実務目線で整理します。
濾過テストが問題になる典型場面
濾過テストの発想が役立つのは、たとえば次のような場面です。
- 小説・脚本・記事:「設定が似ている」「展開が似ている」
- 音楽:「メロディが近い気がする」
- デザイン・広告:「構図や配色が似ている」
- 企画書・構成:「項目立てや順番が同じ」
ここで大切なのは、著作権が守るのは「アイデア」ではなく表現だ、という基本です。
似ているように見えても、その“似ている部分”がアイデアにとどまるなら、侵害にならないこともあります。
濾過テストの結論:結局どこを見るのか
濾過テストは一言でいうと、
共通点から「保護されない部分」を落として、残った部分の創作的表現に同一性があるかを見る
という考え方です。
そして、その判断を進める流れは、次の3ステップで整理できます。
【3ステップ】濾過テストの判断プロセス
1. 共通部分の抽出(まず「どこが同じ?」を確定する)
最初に行うのは、先行作品と後行作品を並べて、
- 具体的にどの要素が共通しているのか
を客観的に特定することです。
実務ではここが非常に重要で、裁判の場では
対比表を作って争点を可視化することが多いです。
2. 非保護要素を“濾過”する(アイデアや事実を落とす)
次に、抽出した共通部分から、著作権法で保護されない要素を取り除きます。
典型的には次のようなものです。
思想、学説、作風等のアイデア
作品の核になる発想、設定、テーマ、プロットの骨格などは、原則として独占できません。
- 「少年少女たちが世界を救う」
- 「幼なじみとの恋愛」
- 「タイムスリップを使った推理物」
こうした表現の手前の“アイデアレベル”の共通は、侵害判断で決定打になりにくい傾向があります。
事実・事件・データ
歴史的事実、客観データ、ニュースなどは万人が利用できる共有財産です。
- 実在の事件
- 統計データ
- 地理・歴史の一般知識
※江差追分事件でも、地域の一般的知見(歴史的事実)部分は保護されない方向で整理されています。
ありふれた表現(創作性が乏しい表現)
誰が書いても似てしまう定型表現や、選択肢が少ない表現は、創作性が弱いとされやすいです。
- よくある言い回し
- 典型的な構図
- 定番フレーズ
✅ ポイント
「似ている!」と思う部分であっても、 アイデア・事実・定型表現 に寄っているケースは少なくありません。
3. 濾過後に残った「創作的表現」の同一性を検討する
(=表現上の本質的特徴を“直接感得”できるか)
最後に、濾過して残った部分――つまり **著作権が守る“創作的表現”**について、
- 後行作品に触れた人が
- 先行作品の「表現上の本質的な特徴」を
- 直接感得できるか
を検討します。
この考え方は、翻案の定義として最高裁が示した枠組みです。
最高裁は、翻案を概ね次のように説明しています。
既存著作物の表現上の本質的特徴の同一性を維持しつつ、修正等を加え、接する者が本質的特徴を直接感得できる別の著作物を創作する行為。
分野別:どこが「創作的表現」になりやすい?
音楽の場合
中心になりやすいのは 旋律(メロディ) です。
ただし状況により、リズムや和声なども含めて総合考慮されます。
- メロディが一致しているか
- 一部だけ似ているのか、核心部が重なっているのか
文章(小説・記事・脚本)の場合
単なる「順番」や「構成」(アイデア)ではなく、
- 用語選択
- 具体的な言い回し
- 文体
- 描写の切り取り方
など、作者の個性が出る部分に同一性があるかが問題になります。
濾過テストと「二段階テスト」の違い
著作権の類似性判断は、説明の仕方として
- 二段階テスト
- 濾過テスト
が並んで語られることがあります。
二段階テスト
- 先行作品に創作性(著作物性)がある部分を特定
- 被告作品がその創作的表現を再製しているか判断
濾過テスト
- 両作品の共通部分を抽出
- 非保護要素(アイデア等)を濾過
- 残った創作的表現の同一性(本質的特徴の直接感得)を判断
どちらも最終的に「創作的表現の同一性」を見る点は同じですが、
濾過テストは共通点を起点に削ぎ落としていく説明がしやすいため、実務感覚にも合いやすい整理とされています。
リーディングケース:江差追分事件(最高裁 平成13年6月28日)
濾過的発想(アイデア・事実と表現の峻別)や、
「表現上の本質的特徴を直接感得できるか」という判断枠組みを理解する上で、しばしば参照されるのが 江差追分事件です。
この事案では、民謡「江差追分」に関するノンフィクション書籍の文章が、NHKのテレビ番組ナレーションに無断で使用されたとして、著作権侵害(翻案)が争われました。
結論(最高裁)
1審2審で判断が分かれましたが、結論として、著作権侵害は成立しないと判断されました。
共通している部分は、事実や一般的なアイデアのレベルにとどまり、原著作物の創作的な表現上の本質的特徴を直接感得できるほどの類似性は認められないとされたためです。
実務でのチェックリスト(侵害リスクを下げるための)
クリエイター側・企業側の両方に向けてポイントをまとめます。
① “共通部分”を特定する
先行作品と後行作品を比較分解して特定する
② 共通点を対比表に落とす
客観的に比較可能な形として整理する
③ 濾過される要素を検討する
アイデア/事実/定型表現が中心なら侵害は成立しにくい方向
④ それでも残る“共通要素”が一致していないかを見る
核心部の表現に同一性があると類似性が認められるリスクは上がる
