生成AIと著作権の境界線

生成AIの急速な社会実装により、従来想定していなかった利用態様への対応が問題となっています。
とりわけ問題となるのが、
「AIによる学習はどこまで許されるのか」
「AI生成物の利用が著作権侵害となる基準は」
という2点です。

本記事では、生成AIと著作権の境界線を整理します。


生成AIと著作権問題の基本構造

日本法では、生成AIをめぐる著作権問題は以下の2段階で評価されます。

段階法的評価
学習・開発段階著作権法30条の4(非享受目的)
生成・利用段階類似性+依拠性(判例理論)

この区別は混同しないよう注意が必要です。


① 学習・開発段階|著作権法30条の4の射程著作権法30条の4の立法趣旨

同条は、2018年改正により新設された規定です。
立法目的は以下の通りです。

  • AI・ビッグデータ解析の技術革新を阻害しない
  • 思想感情の「享受」と無関係な利用を許容する

ここで重要なのは、
👉 AIかどうかという手段ではなく「目的」で判断される点です。


「享受」目的とは何か

「享受」目的とは、著作物等の視聴等を通じて,視聴者等の知的又は精神的欲求を満たすという効用を得ることに向けられた行為であるかどうかという観点から判断されます(『著作権法コンメンタール別冊平成30年・令和2年改正解説』21頁)。

要は、人間が知覚し、鑑賞・評価・感動するかどうかということです

AI学習は、

  • 数値化
  • 重み付け
  • 統計処理

を行うにすぎず、人間による享受が介在しないため、
原則として30条の4に該当します。


学習段階で適法と整理される典型例

  • 大規模言語モデル(LLM)の事前学習
  • 画像特徴量抽出
  • 自然言語処理の統計モデル構築

 → いずれも「非享受目的」です


学習段階でも違法となり得る例外領域

ここは注意が必要な点です。

① 非享受目的が否定される場合

【事実】

  • 特定作品の創作的表現を再出力させる目的
  • 意図的な過学習(再現性を高める設計)

この場合、
情報解析という外形を装っていても、
実質的には享受目的が併存すると評価される可能性があります。
ただし以下のような指摘があるところです。

もっとも対象物が著作物である以上享受目的を副次的に有することは多いと考えられるので、厳格に解しすぎると本条の趣旨が没却される。実質的に享受が目的となっていないと評価できるのであれば、ごくわずかに享受目的が混在することまでは排除されないと考える。」(『知財とパブリック・ドメイン 第2巻:著作権法篇』206頁)


② 権利者の利益を不当に害する場合(ただし書)

この場合も、権利制限規定は適用されません。

  • 「著作権者の著作物の利用市場と衝突するか」
  • 「将来における著作物の潜在的販路を阻害するか」

→ 30条の4本文に該当しても、
上記のような場合には、ただし書で排除される可能性はあります。

たとえば、文化庁の見解では、情報解析用に販売されているデータベースの著作物」を情報解析目的で複製するケースは、ただし書に当たると解しています。


② 生成・利用段階|AIでも「通常の侵害判断」が適用される

AI生成物が特別に扱われることはない

生成・公開段階では、
AIを使ったかどうかは無関係です。

裁判所は、人間の創作物と同様に、

  1. 類似性
  2. 依拠性

の有無により判断します。


類似性

類似性が肯定されるのは、

  • 原著作物と対象の著作物の共通点を認定し
  • 共通点が表現それ自体かどうか
  • 更に共通する表現に創作性があるかどうか

といった基準で判断されることになります。

とはいえ、この判断は容易ではなく、この点はAI生成物であろうそうでなかろうがが同じです。


依拠性|AI特有の問題点

依拠性とは、
既存著作物へのアクセス+それを基礎にした創作であることです。

AIの場合、

  • 利用者が知らなくても
  • 他人の既存の著作物が学習データに含まれていれば

依拠性が認められる。

といった考え方が有力となりつつありますが、いまだ定説はありません。


③ AI生成物は「著作物」になり得るか

人間の創作的寄与があるか

著作物性が認められるには、

  • 指示・入力(プロンプト等)の分量・内容
  • 生成の試行回数
  • 複数の生成物からの選択

といった要素を踏まえて、人間の創作的寄与があったかどうかで判断されます。

  • 単純な短文プロンプトのみ
    → 著作物性が否定される可能性あり

まとめ|生成AIと著作権の境界

生成AIと著作権の問題は、一律に判断できるものではありません
重要なのは、行為の段階を分けて考えることです。

  • 学習・開発段階
    AIによる学習は、原則として著作権法30条の4により適法と整理されます。
    もっとも、特定作品の再現を目的とする場合や、著作物の利用市場と衝突する場合には、例外的に違法となる可能性があります。
  • 生成・利用段階
    AI生成物であっても、判断基準は通常と同じく「類似性」と「依拠性」です。
    AIを用いたこと自体が免責理由になるわけではありません。
  • AI生成物の著作物性
    AI生成物が著作物と認められるかは、人間の創作的寄与の有無によって判断されます。
    単純なプロンプト入力のみでは、著作物性が否定される可能性があります。

生成AIを適切に活用するためには、
「学習」と「利用」を切り分け、目的と態様を具体的に検討する視点が不可欠です。

タイトルとURLをコピーしました